
HUMAN through AI
2026.2.20(fri) - 2.23(mon)
情報科学芸術大学院大学
キュレーション
本展は、IAMAS博士後期課程在籍者である山口達典が「プロジェクト研究 Ⅰ」の枠組みにおいて企画し、山口の研究テーマである「AIとの協働による創造性の発揮のモデル」を探究する実践を行います。
そこで本展は、研究と制作を両輪で行う5名の作家の作品を展示します。出品者はいずれも「日本財団HUMAIプログラム」に採択された学生で、同プログラムは人文社会領域を中心とした関心を持つ参加者が、AIの発展を積極的に取り入れることによって学術活動を推進することが目的とされています。そのためすべての出品作は、制作または研究過程において、何らかの形でAIが関与しています。
つまり本展覧会は、人文社会科学と芸術が交差する領域において、「HUMAN」というテーマを「AIを通して」見つめ直すものです。「AIが人間の創造性においてどのような役割を果たすのか」という現代における大きな問題に対して、それぞれの、それぞれなりの方法を提示することで、多層的に捉えることを試みます。
展示パンフレットより







本展は、山口のキュレーションにより、創作活動にAIが関与している作品を展示しました。作品とともに制作 / 研究に関する資料も並べて展示することで、作品がつくられる過程も可視化しています。

山口 達典
「EXPAND」「EXPANDⅡ」
本シリーズは、AIとの対話的プロセスを通じて自身の創造性を拡張する試みである。 私は「AIアート」の先駆者として知られるハロルド・コーエンを主な研究対象として、AIとの協働による創造性の発揮の方法を考察している。中でも、コーエンが晩年採用した制作方法「collaboration」を、極めて今日に有用な事例として捉える。彼は長年、プログラマの関与を必要としない自律的な芸術制作マシンの構築を目指し、2009年にはそれを達成したと考えた。しかし翌年にはそれを放棄し、プログラム「AARON」が出力するドローイングに彼自身が絵具による彩色を施すようになる。それはコーエンが作品の創造性の所在を、自身にでもAARONにでもなく、それらの対話の中にあるという結論に至ったことによる。心理学者Sundararajanはこの事例を、記号論における内的対話による自我統合理論の文脈で捉えた。これは人間の思考を「〈自我〉の内にある〈他者〉と対話することによって〈自我〉を変容させる」ものとして構造的に捉えたものである。つまりSundararajanによると、コーエンのcollaborationは、絶対的な自律を獲得したAARONという〈他者〉との対話を彩色によって再開することで、創造性を発揮しようという試みであった。私はこの事例にAI時代の創造のあり方をみる。人間と機械の創造性について40年以上もの間考え続けたコーエンの結論は、AI時代において必ず有用なものとなるはずだ。 そこで私は、この内的対話に着目して絵画を制作する。つまり、コーエンとAARONの創造性の発揮を自我統合理論として構造的に捉え、それを再現することで自身も創造性を発揮する試みである。要するに、〈他者〉であるAIと内的な対話を行うことで〈自我〉を変容させる構造を再現した制作方法の構築である。 具体的な制作方法は以下の通りである。まず、モチーフを撮影した写真を元に絵を描く。次に、その絵にAIが変換した画像を貼付する。そのソースとして使用する画像は、《EXPAND》では元の写真、《EXPAND Ⅱ》では自身の描いた絵を撮影した写真である。最終段階として、介入したAIの表象を私が解釈し、画面全体を統合・再構築して絵を描き変える。すなわち、AIは私の撮影する写真、描く絵をもとに変換を行い、私はAIの描く表象を解釈するという、相互作用的な対話を行った。 結果として、従来の自身の手癖や画風を超えた絵画表現が獲得された。また、《EXPAND》と《EXPAND Ⅱ》では使用するAIを変更したが、その差異が画風の変化に現れることも確認できる。私はこれらを、創造性の拡張を示唆するものと考える。そして本シリーズによって、この〈他者〉との対話によるAIとの協働による制作方法を、AI時代の創造性の発揮のモデルの一例として結論づける。 山口達典





永田 一樹
《市民による予想図と匿名的資料(そして僕は途方に暮れる)》
《ベッドタウン・AI》
本展示ではプロジェクト「ベッドタウン・AI」より二作品、インタラクティブ《市民による予想図と匿名的資料(そして僕は途方に暮れる)》のインスタレーションバージョン、およびビデオエッセイ《ベッドタウン・AI》を展示する。 「ベッドタウン・AI」は、AIの普及に伴い建設されるデータセンターを情報の物質的な基盤として捉え直し、AI以後の世界における郊外の風景を探究するプロジェクトであり、特に自身の住む日野市におけるデータセンターの建設計画を事例とし、リサーチと制作を行った。全体としては《Do not say thanks.》、《市民による予想図と匿名的資料(そして僕は途方に暮れる)》、《ベッドタウン・AI》の三つの作品の制作し、また理論的な背景/文脈としてはポスト・インターネットアートと日本美術における風景論、メディア物質主義や脱人間中心主義の立場から検討を行った。 《市民による予想図と匿名的資料(そして僕は途方に暮れる)》は、反対運動を展開する日野市民が独自に作成したデータセンターの予想図(3DCG)の空間内に、インターネット掲示板(5ちゃんねる)に書き込まれた冷笑的あるいは攻撃的なコメントが降り注ぐ、ゲームエンジンを用いた作品である。 この空間には対極にある二つの実践——市民による抵抗と匿名的な冷笑があるが、一方で制作者であり日野市民でもある自身の立場はそのどちらにもなく、「どちらにもなりきれない宙吊りの立場」にある。そうした立場で「途方に暮れる」ための実践として、本作を位置付ける。 ジョナサン・クレーリーは『24/7 眠らない社会』の中で、不眠不休に近づいていく社会システムとテクノロジーによって資本主義的に回収されていく睡眠に光を当て、睡眠を取り戻すことを主張する。一方で、そうした睡眠もまた、労働のための必要条件であり資本主義的な理論に回収されていく。 本作で提示するのは、単純な眠りではなくベッドという装置そのものに含まれる可能性である。消費や運動や冷笑とも異なる場所——ベッドの上で無気力にゲームをプレイすること。安易な解決やポジション取りを拒否し、ただその状況を体感することを意図し、本作は設計される。 また、プロジェクト「ベッドタウン・AI」のまとめとして制作されたビデオ・エッセイである《ベッドタウン・AI》は、自室の部屋からデータセンターのシミュレーション、建設予定地である自動車工場跡地までの映像、テキスト(エッセイ)と自身の声を学習したAIによる音声によって構成される。 《市民による予想図と匿名的資料(そして僕は途方に暮れる)》を引き継ぎながらも個人的な語りとして街やデータセンターを記述し、AIによる音声の微妙な違和感と共に郊外=ベッドタウンのあたらしい風景について考察する。 永田一樹





後藤 汰誓
《Diffractive Intelligence》
1つの宇宙の内部に我々は生きており、そこには様々な知性と、それをもつ存在が含まれる。 かつて人間に特権的に認められていた知性は、人工知能の台頭により、その特権性が解体されつつあり、また人間とは遠くかけ離れているように見えるキノコや粘菌といった微生物も、知性を持つ存在として近年注目されている。知性は絶対的で人間に固有なものではなく、この世界に多様に存在するものとなった。 我々の世界認識は、その知性によって伝統的に生み出されてきた知と複雑に結びつき構成されている。 知性についての問いは、常識的な世界認識や世界経験を問い直す上で重要である。 宇宙は、その内側にある特定の知性、特定の存在を特別扱いすることはない。 我々は常に同じ宇宙にいて、同じ内部であり、そこには多様な知性と物理法則の絡まり合いがある。 知性を持つ存在を認めるとき、その存在それぞれに異なる環世界がある。 世界理解に努めようとする時、人間以外の知性に関心を払い、環世界の複合体としての世界について想像することができるが、 その複合体を外部から観察することはできない。 近代以降の人類が取り組んできた、世界を客体化し理解したいという欲求に基づく科学は、多様な知性に注目したかたちでの世界理解とは相性が悪く、 むしろ科学的な成果として人工知能とその環世界を生み出し、理解の難易度が上がったようにも見える。 世界を構成する主体として、その内側から理解する方法が必要であるが、この時代に生きる我々には何ができるだろうか。 知性と世界、テクノロジー、人間の欲求、そして現に在るものについて問うための媒介として本作品を提示する。 ——— 研究紹介 伝統的な人間中心の思想に対して異を唱える言説、特にポストヒューマニズやニューマテリアリズムと呼ばれる領域の理論に関心を持つ一方で、微生物を用いたデザインや、最新のLLMベースのエージェント設計、作品制作といった複数の実践に取り組み、それらの理論と実践を繋げることで学問的な貢献を目指している。これまでに取り組んだ実践には、キノコの菌糸を用いた「育つ楽器」の制作、身の回りのモノを付喪神のようにエージェント化する「Monokko」、認知症向け対話ロボット「Tomori」などがあり、人間と、それ以外の知性をもつ、もしくは持たない存在とのインタラクションをデザインすることに関心を持って活動に取り組んでいる。 後藤汰誓





宮口 哲哉
《FAID》
平安時代には既に虫の音を愛でる風習があったとされるように、古くから人間は生き物の発する音を楽しんできた。近年では、クジラや鳥、虫たちとの音楽的共演を試みる事例が増えている。こうした生物との音楽的実践が特徴的なのは、科学と芸術の両方の手法、技術、知識を組み合わせ、「人間、動物、植物のいずれもが単独では作り得ない音楽を創造する」点にある。しかし、従来の実践の多くは、人間が楽器を手に自然界へ介入するものだった。本作品は、先駆者として知られるDavid Rothenbergをはじめとする生物との音楽的実践を継承しつつ、現代のAI技術を用いて新たな「異種間音楽の枠組み」を提示する。ここでは人間ではなく、「自律的に聴き、鳴くAI」がカエルとの共演を行う。「カエルの合唱」として親しまれる彼らの発声は、単なる喧騒ではなく秩序ある音楽的構造を持つ。そこには、他個体との重複を避けて逆位相で鳴く「周期性」と、周囲の呼びかけに反応して鳴き出す「同調性」という二つの習性が存在する。本作品では、機械学習により鳴き声の識別と鳴くタイミングの予測を行い、人間には知覚不可能な時間解像度と論理でカエルの歌に同調することで、種を超えた合唱を実現する。また、AIはカエルの合唱に同調しながらも異質な存在として振る舞うことで、カエルの合唱に新たな音楽的緊張をもたらす。Rothenbergらが自らの身体を通して自然との対話を試みたのに対し、本作品は自律的なAIを媒介とすることで人間中心の視座だけでは捉えきれない『種を超えた音楽』の可能性を模索するものである。 《研究内容》 研究では、AIによって可能になる、生物・AI・人間の間の音楽的表現を探求している。同時に、そこで生じる倫理的な懸念や、生物とAIそれぞれが持つ「音楽性」について考察を行う。これまでに、カエルの発声を識別するモデルおよび、発声タイミングを予測するモデルを開発した。技術開発と並行して、田んぼでのフィールドワークや、2匹のカエルとの共同生活を通じ、彼らの生態的・音楽的特性への理解を深めてきた。さらに、AI音楽制作補助ツール「MUGEN」の開発や「PROMPT DJ」等の取り組みを並行して行い、多角的な視点からAIの「音楽性」についての考察を深化させている。 宮口哲哉





田中 美羽
《都市の調律 / Tuning the City》
When the train goes by, what should I pay attention to? The sound or what I see or what goes on in my mind Maybe all three at once. A coincidence, a connection outside, a connection inside. — A Letter from Home, “Blue” Gene Tyranny 音と、そこで生じる私の経験との関係を知りたいと思い、本作を制作した。 その場で聴く音が世界を意味づけ、同時に私自身も作り変えているのではないか——AIが感覚を学習する時代において、聴くという経験はどのように再構成されうるのか。本作はその問いから始まっている。 本作は、環境音と制作者個人の主観データを学習したAIモデルを使い、都市六地点(下北沢・渋谷)の環境音を「快」へ向けて変容させる作品である。 録音は八つの周波数帯域に分解され、2秒ごとに「快」に近づく方向へ各帯域の音量(dB)が変化していく。同時に、制作者・田中美羽の感じる「快」が推定され、予測値が映像内でリアルタイムに更新される。 このように生成された「AIの調律した音」を制作者が聴くことで、環境音を聴く私の判断や感覚を浮かびあがらせようとした。 聴くこと、それは偶然なのか。外とのつながりなのか、内とのつながりなのか。 AIが都市を調律するとき、問われるのは、私の聴き方そのものである。 研究内容 「環境音が都市空間の体験をどのように変えるか」を明らかにする研究を進めている。 これまで原宿・下北沢などで環境音を録音、主観評価を行い、音響特徴量と快適度・疎外感などの主観指標を対応づける機械学習モデルを構築してきた。新しい環境音を入力したときにその場で制作者・田中美羽がどのように感じるかを出力するAIを開発した。 現在「音から都市をデザインする」ことに取り組んでおり、そのフィールドとして高輪ゲートウェイシティで実証実験をしている。具体的には、環境音・3Dデータを記録し、高輪のデジタルツイン上で、具体的な音響介入が個人の体験に与える影響を調査する。これにより、どのような音をどのように配置するかで、快適度や疎外感がどの程度変化するかを推定するモデルを構築することを目指している。2026年2月からアメリカのPurdue大学Center for Global Soundscapesで人間・自然の健康と音の関係について捉える「Sonic One Health」の研究をしている。 田中美羽



